2021年1月2日土曜日

恩師 4

浅野先生が亡くなったのは16〜17年前のことであった。淺野先生の年齢を本人に尋ねたことはなかったが、私より10歳以上年上だろうと私は思っていた。
 
淺野先生とはウマが合った。彼女は独身であったが、二十歳代のころにイギリス人の俳優にあこがれてその俳優と結婚しようと思い、イギリスにあるその俳優の家の前で寝泊まりするためにテントを買い野宿の準備をしたことがあったという。ところがその俳優は浅野先生が日本を発つ直前に亡くなった。
 
そのイギリス人の俳優が浅野先生を知っていたはずはない。その俳優が生きていたとしても浅野先生がその俳優と結婚できたとは到底思えない。
 
しかし「人生」というものを大局的に考えると、浅野先生が実行しようとしていたその無鉄砲な行動は、浅野先生がその後の人生を生きていく上で必須の経験であったのではなかろうか。
 
到底かなえられないとわかっていてもその希望や目標を達成するために全力で努力した経験。これは誰にとってもその後の人生の糧となる。イギリス人の俳優を追いかけた思い出は、浅野先生にとっては人生で一番懐かしい思い出であったようだ。何度もその話を聞かされた。いつも笑いながら。
 

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