2021年4月21日水曜日

「医療崩壊」(小松秀樹 著)のはしがきより抜粋一部改編

医療が進歩するにしたがって医療に対する社会の要求が強くなった。患者は医療にはすべてのことが可能であり、生命は永遠であると思うようになった。患者が死亡すれば医療過誤があったのではないかと猜疑の目でみるようになった。医療が進歩するほど紛争が増えるという皮肉な状況になっている。 特に小児科や産科では、 医療の結果が期待通りでないとき、死や障害が受け入れられない。悲しみが医療への恨み、さらに、ときとして攻撃につながる。患者側からの攻撃の強い小児救急や紛争の多い産科診療など脆弱な部分から医療が崩壊し始めた。 更に2002年前後より医療事故を警察が取り締まることが多くなり、善意の看護師、医師が犯罪の被疑者として扱われ、運が悪いと犯罪者の烙印を捺されるようになった。刑事事件と民事事件の境界がなくなり、これまで民事事件として扱われてきた事件が刑事事件として扱われるようになった。 こうした中、医療従事者の勤労意欲が低下し、彼らは病院勤務、特に業務の過酷な急性期病院から離れ始めた。現状はきわめて深刻である。医療機関の外から思われているよりはるかに危機的である。