2020年12月25日金曜日

恩師 2

やんしゅう先生には随分と可愛がってもらった。そのやんしゅう先生が脳梗塞で倒れたのは1993年。私が留学する直前であった。私がやんしゅう先生を見舞ったとき、奥様がベッドサイドにいらっしゃった。やんしゅう先生は私の顔がわかったらしく、私を見ると興奮して懸命に何か言おうとした。しかし言葉は出てこなかった。やんしゅう先生の変わりように私は大きなショックを受けた。もう社会復帰は無理だろうと思った。
 
私は病室を出ると奥様が私を追いかけてきた。そしてやんしゅう先生が倒れたときの模様を話してくれた。
 
やんしゅう先生はある歯科大学の耳鼻咽喉科教授に赴任することになっていた。その赴任先に私を助教授としてきてもらいたいと倒れる前に奥様に話していたということであった。「國弘は来てくれるかなあ」と奥さまに毎日のように自信なさそうに言いながら、私に電話をする決心がつかずにいたという。「よし、明日の晩、國弘に電話するぞ!」と決心し、奥様にそのことを告げたその晩にやんしゅう先生は倒れたと聞かされた。
 
その話を聞いて、私はどっと涙が出てきた。奥さまも泣いた。何分ほど泣いたであろうか。
 
やんしゅう先生が亡くなったのはそれから1年あまり後。私が留学中のことであった。奥様に再度お会いしたのはやんしゅう先生の三回忌の時であった。三回忌は群馬県太田市の奥様の実家で執り行われた。

0 件のコメント: