2006年12月12日火曜日

三輪車

私の家には2台の三輪車があった。1台は家内がバーゲンで買ってきた年代物、もう1台は親戚から貰い受けたものであった。

息子が5歳になったとき私はバーゲンで買った年代物の三輪車をオークションにかけた。息子は成長し、その小さな三輪車には乗れなくなっていた。

高松に住む老婦人が落札してくれた。孫にぜひ譲ってもらいたい。素朴なデザインが気に入っていると言われた。私はただでその自転車を譲ることにした。

2日ほど経って宅配業者が三輪車をとりにきた。そのとき息子が自宅から走り出てきた。そして何ヶ月も乗ることのなかったその三輪車に乗り始めた。自宅前の狭い道路を勢いよく3周4周した。その後、その自転車を私に返し、何も言わないまま家の中に戻った。

私が発送手続きを済ませて自宅の中に入ると、息子はリビングに立ちすくんで一人涙を流していた。私の顔を見、あわてて涙をぬぐった。そのとき、私は、あの古ぼけた三輪車に息子は愛着を持っており手放したくなかったのだということに気づいた。私にとってはガラクタであっても息子にとっては宝物だったのだろう。私は息子に無断で息子の三輪車をオークションにかけたことをすまなく思った。

数日後、落札者である高松の老婦人から小包が届いた。小包の中には感謝状と一緒に手作りのかわいいぬいぐるみが入っていた。

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