父親が看護師から清拭してもらっている最中にその看護師に対して「気持ちがいいので局部をもっと触ってくれ」という意味のことを言ったというのだ。父親がどのように言ったのか、正確な表現は知らないが。
私はこのことを姉から知らされた。姉はこのことをすごく恥じていた。姪もこのことで父親に激しく腹を立てており、もう「すこやかな森」には恥ずかしくて行けないと言っているということであった。
この話を聞いて私も恥ずかしくなかったわけではない。しかし、転院前、もみの木病院で主治医から見せられた父親の脳梗塞の範囲は広く、側頭葉から前頭葉に及んでいた。父親の言動がおかしくなるのは当然であった。私はこの件で父親を責めても仕方がないと考えた。
その後、わたしが「すこやかな森」に父親を見舞った際、主治医からこの件について尋ねられた。「お父様は普段からこのようにエロチックな方だったのですか」と。私ははっきりとは答えなかったように記憶している。
この時期のことであろうが、私が姪に対して「おじいちゃんの夜の伽をしろ」と言ったと姪は裁判の際に証言した。ここまで作り話をするのかと、私は愕然とした。
姪が恥ずかしがっているということを姉から聞かされたとき、私は姪に対して申し訳ないと思っていた。ただ、どうしようもないと考えていた。父親は脳の病気を患っているのだ。父親には責任はない。父親の子である私にも姉にも責任はない。看護師に対しては一言謝罪すべきだと思ったが、私と姉と姪との間で責任のなすりつけあいをすることではなかった。
いずれにしろ、もし父親が私が勤務する病院に入院していたならば、私の病院の看護師はこのようなことを大げさには扱わなかったであろう。私は高知県内の医療レベルが低いことに失望した。
私の姉が父親のことを「エロじじい」と盛んに言い出したのはこの事件の後であったように思う。