2018年7月16日月曜日

遺産相続 11 母親の葬儀

私は母親よりも父親との出来事を思い浮かべることが多い。父親のことは懐かしく思い出せるが、生前の母親のことを思い出すと今も胸が締め付けられる。

母親の葬儀は、姉と姉の長女と次女に汚された。

その前の年に亡くなった私の父親の葬儀に彼らは参列しなかった。ところが、母親の告別式の直前、突然、葬儀場に姿を現した。

告別式。

驚いたことに、彼らは誰も親族席には座らなかった。一般参列客席のしかも最後列に座った。姉は再度立ち上がり、私のところに歩み寄ってきた。そして、焼香しないと告げた。私は「そんな宗教があるか!」と姉を怒鳴りつけた。私の側に座っていた親族は姉に対して親族席に座るようにと説得した。しかし姉はそれに従うことなく一般参列席に戻っていった。後に姉の長女(私の姪)が語ったところによると、姉や姉の子どもたちが親族席に座らなかったのは、私が怖かったからということであった。あれほど可愛がってくれた私の母親に対して何ら感謝の気持ちを抱かなかったばかりか、単に母親の介護をするのが嫌だという理由だけで母親に一方的に絶縁を告げた彼らが私に顔向けできなかったのは当然である。しかし彼らが私を恐れる原因は私にはない。さも私に責任があるかのように言うのは非常識である。しかも葬儀は厳粛な儀式である。 喪主である私が怖いからといって最も近い親族が一般参列客のしかも最後列に座ることは許されない。非常識極まりない一家である。

さて、喪主である私の挨拶と読経が終わった後、親族や参列者の焼香が始まった。ところが姉と姉の子供たちは一般参列客の焼香が終わろうとしたときになっても席を立たなかった。参列客たちの視線が姉たちに注がれた。参列者たちから焼香するようにと促され、やっと重い腰を上げた。姉はよろめき娘たちに支えられよろよろしながら祭壇へと歩いていった。姉の子どもたちは焼香した。しかし姉は焼香しなかった。参列者の一人が姉に近づいて焼香するようにと促すと、姉は自分の代わりに焼香してくれるようにと彼女に頼んだ。焼香席から戻る途中、姉は母親の柩の前で立ち止まり、何度か母親の顔に手で触れた。そして元の一般参列者席に戻っていった。

耳が遠い姉には、読経の前の私の喪主挨拶が聞こえなかったという。その姉に対して、姉の長女は、私が姉の悪口を話したと告げたらしい。告別式の晩、姉が従姉に電話をかけ、私と私の家内と私の息子が母親の財産をすべて自分たちの名義に書き換えたと告げたのは、姉の娘から告げられた私の挨拶に腹を立てたからと後に姉は語った。

非常識な姪である。他の参列者が証言してくれたとおり、私は何一つ姉の悪口など言っていない。私は単に、「母親は死ぬ間際まで実の娘である姉に会いたがっておりました。娘に会えないまま死んでいった母親はさぞかし寂しかっただろうと思います」と話しただけであった。私は、母親は最期まで姉に愛情を抱き姉の身を案じていたということを私は告げたに過ぎない。姉がどれほど母親を憎んでいようと母親は死ぬ間際まで姉を気遣っていた。これは「事実」であり「悪口」ではない。

告別式のあと従姉のひとりから聞かされたことであるが、この姪は「裁判をすれば私たちが勝つと私の知人は知っている」といったことを葬儀場で従姉たちに話していたという。私は、一体何の裁判なのだろうかと思うと同時に、葬儀の場でこのような話をした姪に呆れた。

子を4人持ち、孫もたくさんいる姉が、なぜ子に対する母親の気持ちを理解することができないのであろうか。両親の晩年、姉は両親の財産にしか関心がなかったことが、人としてあたりまえの感情すら失わせてしまったのであろうか。

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