もう数年前のことになるであろうか。12月30日(晦日)。その日、私は院長代理当直を務めていた。病院は年末年始の休診期間に入っていた。
午後4時過ぎに病院から電話がかかってきた。電話をかけてきたのは救急外来のナースであった。その日の朝8時頃に救急外来を受診した30歳代の耳鼻科の患者がずっと大騒ぎを続けていて大変困っているが、どのように対応すればいいのか、指示を仰ぎたいという内容であった。
その患者は、「喧嘩をして頭を殴られた。年末年始は病院に入院させくれ」と言ってきかないという。耳鼻科の当直医ばかりでなく皮膚科医や脳神経外科医などもその患者を診察し入院の必要はないと診断したのにもかかわらず帰宅しようとはせず、入院させろと大騒ぎをしていて、他の救急患者の診療に多大な支障が生じていると、電話をかけてきたナースは困惑していた。
その患者は私と知り合いであるとも言っているということであった。確かに私はその患者を知っていた。その数カ月前に私の手術を受けることになっていた。しかし手術前の検査日に受診しなかった。こちらから患者の自宅に電話をしたら連絡はつかなかった。その後もその患者からは何の連絡もなかった。当然、手術も受けなかった。
私は、その患者を知っているが私と特別な関係ではないと説明し、ガードマンを呼ぶようにと言った。しかし既にガードマンは呼んだという。ガードマンでは対応ができないと言われた。ならば警察署に通報するようにと私は指示をした。そして電話を切った。
その後、1時間ほどして、再度、電話がかかってきた。まだ警察には通報していないということであった。しかし、警察を呼ぶようにと私が指示したということは患者に言ったらしい。患者は「じゃあ、帰ってやる」と言い始めたということであった。
ところが、その患者は、今度は「帰宅してやるから救急車を呼べ」と救急外来で騒ぎ始めた。ナースが拒否すると「じゃあ、自分で呼ぶ」と言って救急隊を呼んだという。
午後6時過ぎになってまた救急外来から電話がかかってきた。その患者が救急外来で騒ぎまわっている姿を見て、呼び出しを受けた救急隊員が怒ってしまった。そしてその救急隊員が警察署に通報した。
警官が救急外来にやってきてやっとその患者は静かになった。結局、その患者の自宅に電話をかけ、母親を呼んだ。そして母親がその患者を連れに救急外来を訪れた。患者は母親と一緒に帰宅していった。
ところが、その患者は帰宅時、その日の診療費を一切支払わなかった。「第三者行為による怪我であるから支払う必要はない」と言ったという。逆である。第三者行為による怪我の場合には、患者は病院に対して医療費の全額を支払わなければならないのだ。つまり保険は効かない。そしてその医療費は被害者が加害者に請求しなければならない。
この患者はその日の朝から夕方までずっと救急外来での診療行為を妨害した。そのうえに、診察も受けている。このような不条理が許されていいものであろうか。
調べたところ、その患者は私の外来ばかりでなく他の診療科も過去に何度か受診していた。しかし一度も医療費を支払っていなかった。
こんな出来事は、今の病院では日常茶飯事である。これも医療崩壊のひとつであろう。
1 件のコメント:
初めてお邪魔いたします。
私は高知学芸高校出身の大崎瀬都と申します。
以前、このブログで私の歌集を紹介してくださってありがとうございました。
このたび、第二歌集を上梓いたしましたので、もしよろしければ一冊謹呈させていただきたく存じます。
アドレスは、nmfkg592@yahoo.co.jp です。
ご連絡をお待ちしております。なお、このコメントは公開しないようお願いいたします。 大崎瀬都
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