私の書斎の書架には1冊の歌集が立っている。「海に向かへば」という表題がつけられている(出版:雁書館)。この歌集の作者と私とは高校時代の同期である。
私は高知県にある中高一貫教育の私学で6年間の学生生活を送った。この歌集の作者である「大崎瀬都」という女性は高校から編入してきた。だから彼女と一緒に学生生活を送ったのは3年間にすぎない。しかも彼女は文科系のクラスに進んだ。同じクラスになることはなかった。そんなこともあって学生時代に彼女と話をしたことは一度もなかった。
彼女は小柄で物静かであった。そしていつもうつむき加減に歩いていた。決して目立つ学生ではなかった。しかし私は、廊下などで彼女とすれ違うたびにはっとして彼女の方に目を向けた。
彼女の歌は当時、高校生向けの月刊誌に毎月のように入選していた。それらの歌を目にするたびに私は彼女のみずみずしい感性に驚嘆した。校舎の中の階段の昇り降りといったきわめて平凡な行動にすら彼女は歌のなかで私に大きな感動をもたらしてくれた。
「海に向かへば」はそんな彼女が数年前に出版した歌集である。この歌集の中の1章のタイトルでもある。この章のなかに収められた歌を読めば「海」とは土佐湾に広がる太平洋であることがわかる。この章の中の作品をいくつか紹介したい。
故郷の海も真近しベルが鳴りここよりは「土佐くろしお鉄道」
故郷へ向ふ列車の夜の窓に一歳(ひととせ)老いし顔を映せり
降り立ちし爪の先よりほぐれゆくわれをつつみて故郷のあり
故郷の川に下りて手を洗ふわれの儀式を知る人のなし
列車動けば目をそらしたり見送りの母は涙を見せるかも知れず
気の遠くなるほど長き歳月と言ふにあたらず海に向かへば
1 件のコメント:
國弘先生へ 突然コメントするご無礼をお許し下さい。私は静岡県袋井市に在住する白井と申します。短歌を趣味としています。大崎瀬都さんの「海に向かへば」の歌集を探しておりますが、すでに絶版になっていて入手できません。ところ先日電脳短歌BBSにコメントしたところ、ご本人の大崎さんから「海に向かへば」は自宅に在庫があるというコメントがありました。しかし大崎さんご本人にメールをしても返事のメールがありません。それで、もしも先生が大崎さんの住所なり連絡先をご存知でしたら教えていただけないでしょうか?もちろん個人情報ですので扱いには十分注意いたします。よろしくお願いします。
〒437-12117静岡県袋井市松原952-1
白井健康(しらいたつやす)
メールアドレス:photots9521@yahoo.co.jp
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