2008年3月22日土曜日

バレンタインデー

私の年齢の多くの男性ににとってバレンタインデーはもはや興味の対象ではないであろう。私も当事者としてバレンタインデーに興味を持つことはない。しかし第三者としては興味がないことはない。

女性が自分の恋心を男性に告白する日。その恋心と一緒に男性に贈るチョコレートは「ラブチョコ」と呼ばれる。(「ラブチョコ」などという言葉は聞いたことがないとついさっき知人から叱られてしまったが。)

私の高校時代、女性に実によくもてる男が何人かいた。バレンタインデーに彼らはいろいろな女性から籠一杯のラブチョコをもらい、重そうに抱えながら自宅に持って帰っていた。なかには、食べきれないからと、もらったチョコレートをクラスメートに分け与えている者もいた。当の私は、中学・高校の6年間の間に一個たりともラブチョコなるものをもらったことがない。

高校2年生のときであったと思う。バレンタインデーの日の午後のこと。私は校舎と校舎とをつなぐ渡り廊下にぼんやりと立っていた。すると、ある女性が恥ずかしそうに私に近寄ってきた。彼女はしばらくの間もじもじしていた。私は何のことかわからない。彼女はしょうがないと意を決したのか、申し訳なさそうな表情を浮かべながら次のように私に言った。

「あの、ちょこっとこの場所を空けてくれますか。」

ふと左側を振り向くと私に背を向けながひとりの男が立っていた。クラスメートであった。元の方向に視線を戻すと彼女の数メートル後方に別の女性が真っ赤に顔を染めて恥ずかしそうに立っているのが目に入った。私のすぐ目の前に立っている女性は、自分の女友だちのために今回の仲介役を果たそうとしていたのだ。やっと私にも事情が理解できた。

私は「すみませんでした」と言っていそいそとその場を立ち去った。立ち去り際にちらっと後方を振り向くと、赤面し恥ずかしそうにしながら彼女は私のクラスメートにチョコレートの箱を渡していた。彼がその日受け取ったチョコレートは紛れもなくラブチョコであった。しかし彼女とは対照的に彼は全く無表情であった。

私のクラスメートとその女性とのつきあいがそれをきっかけとして始まったという話は私の耳には入らず終いであった。私から誰かにふたりの関係について尋ねることもなかった。そのクラスメートは女性によくもてた。女性はクラスが違ったが、彼女も男子生徒にとても人気があった。したがって私にはふたりが結び合っていかないのが不思議であった。だが、いずれにしろ私からは遠い世界のできごとであった。当時の私にとってはふたりの関係がどうなろうと羨望の対象にも嫉妬の対象にもなりようがなかった。

この出来事は今も鮮明な記憶として残っている。このことを思い出すたびに私は今でもただただ恥ずかしくなるばかりである。たとえ偶然とはいえ、ふたりの「密会」の場所に出くわしてしまったのだ。土足で他人の家に上がり込んだようなものである。

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