息子が1歳になるかならないかの頃、国際学会に出席するために家族でイタリアにでかけた。その帰りの飛行機のなかでのできごと。
飛行機の離陸が大幅に遅れた。予定出発時刻から1時間経っても離陸の目処が立たなかった。まだ幼い息子はじっとしていられなくなり、ぐずり始めた。そして「キーッ」という奇声をあげだした。私たちはなんとか息子をあやそうとしたが、完全には静まらない。
そんなとき、機内のチーフパーサーが私たちの座席に寄ってきた。日本人男性であった。そして私たちにこう尋ねた。
「お子様は飛行機への搭乗に慣れていらっしゃらないのですか?」
チーフパーサーとすれば精いっぱいの注意だったのであろう。しかし1歳になるかならないかの子供が飛行機に乗ることに慣れているはずがないではないか。ましてやいつ動き出すともしれない狭い機内で赤子にじっとしていろというのは無理ではないか。
私たちはそのチーフパーサーに対して謝った。しかし謝ってはみたものの、どうすればいいのか、私たちにはわからなかった。
運良くそれから程なく飛行機は動き出した。それとともに息子も静かになり、いつの間にか眠ってしまった。成田空港に着くまでの間、息子はほとんどずっと眠っていた。
「お子様は飛行機への搭乗に慣れていらっしゃらないのですか?」
この言葉をいま思い出しても、どう答えればいいのか私にはわからない。
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